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甲府地方裁判所鰍沢支部 昭和47年(ワ)10号 判決 1974年3月20日

主文

一  被告は原告望月貫次に対し金四、五〇四、四八七円、同望月けいに対し金三、六〇四、四八七円、同望月美枝子に対し金六、七〇八、九七五円および右各金額に対する昭和四七年六月八日から完済まで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  第一項は仮に執行することができる。

五  ただし、被告が原告望月貫次に対し金四、三〇〇、〇〇〇円、同望月けいに対し金三、四〇〇、〇〇〇円、同望月美枝子に対し金六、二〇〇、〇〇〇円の担保を供するときはそれぞれの右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告 「一、被告は(1)原告望月貫次に対し金六、二六四、四八一円(2)原告望月けいに対し金五、二二四、四八一円(3)原告望月美枝子に対し金八、九四八、九六二円、およびこれに対する本訴状送達の翌日から支払ずみにいたるまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言

二  被告 「一、原告らの請求を棄却する。二、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決および被告敗訴の場合は担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二請求の原因

一  原告らと訴外亡望月法弘との身分関係

原告望月貫次、同望月けいは訴外亡望月法弘の父母であり、原告望月美枝子は同訴外人の妻であつた。

二  事故の発生

訴外亡望月法弘(以下訴外法弘という)は、昭和四七年五月二日午前九時四五分ころ、小型自家用貨物自動車(山梨す六四一四号)を運転し、山梨県南巨摩郡早川町町道角瀬羽衣線(以下本件町道という)を七面山方面より本建方面に向つて進行し、同町栃原山八六一番地先にさしかかつた際、突然道路わきの急斜面の高さ八〇メートルくらいの地点から、直径約三〇センチメートル、重さ約二七キログラムの石塊が落下し、右車両のウインドガラスを打破り、運転していた同訴外人を直撃し、この衝激により同車両は道路わきコンクリート製砂防堤に激突横転し、その結果頸髄損傷等数か所に重傷を負い同日午前一〇時二五分同郡中富町飯富一六二八番地飯富病院において死亡し、同車両は大破した。

三  被告の責任

本件町道は、もと訴外望月岩吉がトロツコによる木材搬出のための私人用林道として開設したものを、昭和二六年八月七日当時の山梨県南巨摩郡本建村がこれを村道として認定し、その後町村合併の結果町道として被告が管理しているもので、多いときは一日数百台に及ぶ自動車の通行があるが、険しい山腹を切り開いて造成した早川町角瀬地区から同町白糸の滝参道上り口までの全長三、三二一メートル、幅員三ないし四メートルの山間道路であつて、その間落石の危険があり、本件事故以前にも落石による事故が数回発生し人車が損傷を受けたことがあつた。特に本件事故の現場付近は高さ約八〇メートル幅約一〇〇メートルに亘つて急斜面の岩はだが続いていて、恒常的ガレ場であり、普段でも強い風が吹くと小石が落下する危険な地域であるのに、被告は本件事故当時「落石注意」の標識さえ設置してなかつた。このような状況にあつたので付近住民や新道路愛護組合長井出一郎らは再三被告に対し、完全な防護壁の設置を陳情して来たが、被告はこれを無視して放置したため本件事故が発生した。

すなわち、本件事故は、被告がその営造物である本件道路の設置および管理につき充分な施策を施さなかつた瑕疵に基くものである。

四  財産上の損害

(一)  訴外法弘の損害金一四、八九七、九二四円

(1) 訴外法弘は、昭和四一年四月から山梨県西八代郡下部町久那土、株式会社上田謙太郎商店に自動車運転手として雇用され、給料手当等を含めて年間九七九、〇一〇円の収入があつた。

なお、右勤務の余暇に原告貫次と共同して栗の栽培と養鶏業を営み一か年合計金一、四四〇、〇〇〇円の収益をあげており、訴外法弘の収益率は四分の一に当り同訴外人は金三六〇、〇〇〇円の収入があつた。

右の収入合計一、三三九、〇一〇円のうち三〇パーセントが生活費となつているので、これを差引いた金九三七、三〇七円が訴外法弘の一年当り実収額である。

(2) 訴外法弘は、死亡当時満二九歳(昭和一七年五月二二日生)の男子で生前は普通健康体であつたから厚生省大臣官房統計調査部作成にかかる昭和四四年度簡易生命表によれば平均余命は四二・八三年であり、本件事故に会わなければ満七一年一〇か月に達する昭和八九年一〇月まで生存するものと推定され、同人はそのうち少くとも満六〇歳に達する昭和七八年五月まで三〇年間前記業務に従事し前記の収入を挙げることができる。この喪失利益をホフマン式計算によつて法定利率による中間利息を控除し、死亡時の一時払額に換算すると金一六、八九七、九二四円となる。原告らは同町農業協同組合から賠償責任共済契約に基づく共済金二、〇〇〇、〇〇〇円を交付されたのでこれを差引くと金一四、八九七、九二四円となる。

(二)  原告貫次の損害金一、〇四〇、〇〇〇円

(1) 葬儀費用金三〇〇、〇〇〇円

(2) 弁護士費用金六〇〇、〇〇〇円

(3) 自動車修理代金一四〇、〇〇〇円

五  原告らの慰藉料

(一)  原告貫次、同けい、各自金一、五〇〇、〇〇〇円

(二)  原告美枝子 金一、五〇〇、〇〇〇円

六  権利の承継

訴外法弘の前記死亡により、原告貫次、同けいは各四分の一、同美枝子は二分の一の割合で、同訴外人の前記権利を相続承継した。

七  (結論)よつて、被告に対し、原告貫次は相続による損害賠償請求権に基づき金三、七二四、四八一円、損害賠償金一、〇四〇、〇〇〇円および慰藉料一、五〇〇、〇〇〇円の合計金六、二六四、四八一円、原告けいは相続による損害賠償請求権に基づき金三、七二四、四八一円および慰藉料一、五〇〇、〇〇〇円の合計金五、二二四、四八一円、原告美枝子は相続による損害賠償請求権に基づき金七、四四八、九六二円および慰藉料一、五〇〇、〇〇〇円の合計金八、九四八、九六二円および原告各自右合計金に対する本訴状送達の翌日からその支払ずみにいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第二請求の原因に対する答弁

一  第一項の事実は不知。

二  第二項中訴外法弘が、原告主張の日時、その主張の自動車を運転し、本件町道を七面山方面より本建方面に向つて進行し、早川町栃原山八六一番地先において落石事故に遭遇したことおよび同訴外人が原告主張日時場所において死亡したことを認め、その余の事実は不知。

三  本件町道開設の経緯および被告がこれを管理していること本件町道が早川町角瀬地区から同町白糸の滝参道上り口までの全長三、三二一メートル、幅員三ないし四メートルの山間道路であり、その間落石の危険があること。本件事故の現場付近は高さ約八〇メートル幅約一〇〇メートルに亘つて急斜面の岩はだが続いて居ること、を認め、本件事故現場が恒常的ガレ場であること、本件町道を多いときは一日数百台に及ぶ自動車の通行すること、被告は本件事故当時「落石注意」の標識を設置しなかつたこと、被告が陳情を無視して放置したため本件事故が発生したこと、本件道路の設置および管理に瑕疵のあつたことを否認し、その余の事実は不知。

四  第四項および第五項の事実は争う。

五  第六項の事実は不知。

第三抗弁

一  本件事故当日は、気象異変のため前日来の豪雨により地盤は軟弱となつているうえ、事故当時は、通常発生の予期を全く上回わる秒速三〇メートルを超える台風なみの強風が吹き荒れ、そのため道路脇断崖上の樹木はその根幹を大きく揺さぶられた結果、思いもうけぬ根元土中の岩石が振り落されたため本件事故となつたもので不可抗力によるものである。

二  仮りに被告に賠償責任があるとしても、本件当日、本件町道の角瀬地区での県道との交差点付近より白糸の滝参道上り口方面へ三三〇メートル隔たる地点までアスフアルト舗装工事のため、被告は右交差点の本件町道入口に通行止めの標識を設け、かつ、バリケードを設けて全長道路への立入を禁止したのであるから、該工事関係者以外の者は本件町道内に進入してはならないのに、訴外法弘は右標識を無視し、右バリケードを排して、その運転車両を本件町道内に進入させ、本件町道終点付近まで走行し、更に角瀬地区に引返す途中本件事故に遭遇したもので、故意もしくは過失による通行禁止無視の違法(道路法四六条一項、一〇一条一項二号)があるから損害額の算定にあたり相当額を相殺控除すべきである。

第四抗弁に対する答弁

抗弁事実を否認する。

証拠〔略〕

理由

一  (原告らと訴外望月法弘との身分関係)いずれも成立に争いのない甲第一号証の一および二によれば、請求原因第一項の事実を認めることができる。

二  (事故の発生)訴外法弘が、昭和四七年五月二日午前九時四五分ころ、小型自家用貨物自動車(山梨す六四一四号)を運転し、本件町道を七面山方面より本建方面に向つて進行し、山梨県南巨摩郡早川町栃原山八六一番地先にさしかかつた際、突然道路わきの急斜面の高さ八〇メートルくらいの地点から直径約三〇センチメートル、重さ約二七キログラムの石塊が落下し、右車両のウインドガラスを打破り、運転していた同訴外人を直垂し、この衝激により同車両は道路わきコンクリート製砂防堤に激突横転し、その結果頸髄損傷等数か所に重傷を負い、同日午前一〇時二五分同郡中富町飯富一、六二八番地飯富病院において死亡したことについては当事者間に争いがない。

三  (被告の賠償義務)本件町道は、もと訴外望月岩吉がトロツコによる木材搬出のための私人用林道として開設したものを、昭和二八年八月七日当時の山梨県南巨摩郡本建村がこれを村道として認定し、その後町村合併の結果町道として被告が管理していること、本件町道は早川町角瀬地区から同町白糸の滝参道上り口までの全長三、三二一メートル幅員三ないし四メートルの山間道路であつて、その間落石の危険があること、本件事故の現場付近は高さ約八〇メートル幅約一〇〇メートルに亘つて急斜面の岩はだが続いていることについては当事者間に争いがない。証人井出一郎、同望月和男、同小林十四、同望月久徳、同望月武平の各証言、検証の結果および原告貫次本人尋問の結果を総合すると以下の事実を認めることができる。

本件町道は早川町角瀬地区において県道二二〇号線から南方に分岐し、同町白糸の滝に達する道路であるが、右分岐点から早川町立早川南小学校南方までの部分を除き、山腹を切開いて設けられ、本件事故現場付近において本件町道は北に向つて右にゆるやかに湾曲し、西側に勾配約三五ないし三七度の急斜面の山腹がそそりたち、その頂上付近および山腹の一部が杉および雑木で覆われているが、山腹の樹木間の凹地は自然に崩壊落下した小石を含む土砂によつて埋められ、その下端は本件町道に達して居り、山腹には岩石の突出部分があつて不規則な傾斜面をなしている。本件事故において石塊が訴外法弘運転車両に落下直垂した場所の南方約一七メートルの地点から本件町道沿いに南に約七三メートル、高さ約三・三メートルのコンクリート砂防堤が設けられており、これは昭和三八年右砂防堤設置部分において本件町道上に土砂などが崩れ落ちたため、その災害復旧工事として行われたものであるが、本件落石のあつた山腹部分に比べて右砂防堤上部の山腹部分は幾分傾斜が緩やかになつていて、背丈の低い雑木によつてその表面が覆われているが、本件落石現場付近は傾斜が幾分急になり、土砂の崩落が草木の生育を妨げて草木は全く生えておらず、崩落土砂が露出している。本件事故現場付近においてこれまでしばしば落石があり、また付近住民には本件町道の大部分に落石の危険のあることが意識され、本件町道南方より本件事故現場を通つて通学する児童に対し、早川町立南小学校では平素落石に警戒するよう注意し、また本件事故当日午前八時半ころ同校五・六年児童四九名が遠足で同所付近を通過する際には、それまで四列に並んでの行進を引率の教師の指示のもと二列に並ばせて、山腹側と反対の本件町道東側部分を歩かせ、かつ引率教師がその先頭および後尾にあつて落石に対する警戒に当りつつ約二〇〇メートルの区間を通過した。羽衣地区の住民および参詣者、登山者を相手とする業者および坊関係者は道路愛護組合を作り、機会あるごとに被告町に対し本件事故現場を含む本件町道の危険区域に防護柵を設置するよう申入れてきた。しかしながら、被告町においてはかつて昭和三八・九年ころ「落石注意」の標識を本件事故現場付近にたてたことがあつたが、本件事故当時ころは右のような標識はなく、被告町においては、昭和四四年四月以降本件事故当時まで本件町道に関し拡幅修理舗装等の工事すら行わず、危険箇所の調査を行つたこともなく本件町道山腹側の土質、岩石についての調査研究を行つたこともない。本件町道は日蓮宗総本山身延山久遠寺別院七面山敬慎院に通ずる道路であり、信徒、登山者が利用し、信徒が団体として徒歩で通行するほか、タクシーその他の自動車がひんぱんに利用し、早川町内においては最も利用度の高い町道である。この認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、交通が円滑安全に行われるべき本件町道が通常有すべき安全性に欠けていたことが明らかである。本件町道の事故現場付近においてしばしば落石や土砂崩れが起り、通行上危険があつたにもかかわらず、道路管理者たる被告町においてなんら危険防止の措置をとらなかつたものであるから、通行の安全性に欠け、その管理に瑕疵があつたものと言わなければならず、被告町はよつて生じた損害を賠償する責任がある。

四  (不可抗力の抗弁)証人望月武平の証言によれば、本件事故の前日である五月一日の午前中降雨があり、かつかなり強い突風のあつたことが認められ、そのため本件事故現場山側の地盤が幾分軟弱になつていたのではないかと推認されるが、しかしその降雨突風により本件町道上に山側から落石、崩土などのあつたことは認められず、したがつて前記降雨、突風は通常発生の予期される程度を越えるものではなかつたものと考えられ、また本件事故当時、被告町の主張するような秒速三〇メートルを超える台風なみの強風が吹き荒れたことについては本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。もつとも証人中込正光の証言中には、被告町の主張するような強風があつた趣旨の証言があるが、証人望月和男、同小林十四、同望月久徳の各証言に照らし措信できない。不可抗力の抗弁は理由がない。

五  (過失相殺の抗弁)原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第九号証、証人小林十四、同中込正光、同望月武平の各証言、原告貫次本人尋問の結果および検証の結果によれば、本件事故当日訴外株式会社早野組が本件町道のうち早川町高住六二〇番地俵屋旅館付近から南へ約四〇〇メートル町立南小学校付近までの間を前日の準備工事に引続き午前七時ころから簡易アスフアルト舗装工事に着手し、俵屋旅館前北側付近に二基の単に早野組名義の「舗装工事につき通行止」と記載のある標識を設置したにとどまること、一方右工事区間の南端には右のような通行止の標識は設置されていなかつたこと、県道二二〇号線には本件町道との交差点の西方より町立南小学校正門前に通じる幅員約二メートルの非舗装道路が通じており、前記舗装工事のため、自動車は一時待たされたことはあつたものの、舗装工事中であつても工事区間より南方の本件町道部分は平常通り通行の用に供されていたこと、を認めることができ右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実によれば舗装工事部分北端の標識は単に舗装工事部分につき通行を禁ずるにとどまり、その工事区間以外の本件町道には関りのないものと言わなければならず、本件町道全区間にわたつて被告町において通行禁止の措置をとつたことについては、本件全証拠によるもこれを認めることはできない。そうだとすると本件町道全区間にわたつて道路管理者たる被告町により通行禁止の措置がとられていたことを前堤とする被告町の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことは明らかである。

六  (財産上の損害)(1)証人上田誠の証言により成立の真正を認めうる甲第六号証、第七号証、第八号証の一ないし二八、証人上田誠の証言および原告貫次本人尋問の結果を総合すると次の事実を認定することができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

訴外法弘は、昭和四一年四月から本件事故当時まで、山梨県西八代郡下部町三沢一、〇八一株式会社上田謙太郎商店の自動車運転手として稼働し、肉鶏およびその飼料の輸送に従事していたもので、同会社から昭和四六年において、年間五か月分の賞与を含めて九七九、〇一〇円(うち八、一〇〇円が源泉徴収税額)の給与所得があつた。

右会社の勤務時間は平日午前八時から午後五時までで、肉鶏の出荷時には幾分出勤時間が繰上がることがあり、その通勤には片道約三〇分を要した。

原告貫次は、昭和四四年ごろから上田謙太郎商店より委託を受けて肉鶏の飼育を始めたが、訴外法弘が上田謙太郎商店から飼料などを持ち帰る関係から同商店は訴外法弘名義で仕切伝票を切つていた。上田謙太郎商店からの委託料の計算方法は成鶏を同商店に納入し、その価額から、ひな、飼料、薬品代を差引くことにより行われ、昭和四六年度における委託料合計は一、一七〇、〇〇〇円であつた。なお、肉鶏の飼育にあたつてはケージを使用しないいわゆる平飼の方法がとられ、三日に一度の割合で給餌し、山から引いた水を流して給水し、時々見廻る程度のものであつた。

また、原告貫次は約四〇〇本の栗の木を栽培し、昭和四六年ごろには約二、〇〇〇キログラムの収穫があり、その価額から肥料代、人件費を控除し二七〇、〇〇〇円の収益をあげていた。

訴外法弘は前記のごとく上田謙太郎商店に勤めるかたわら、出勤前後の時間および休日には肉鶏の飼育および栗の栽培の仕事にも従事していた。

右の事実に基づき訴外法弘の逸失利益を計算すると、給与所得については支給総額より源泉徴収税額を控除した年額九七〇、九一〇円から更に生活費を控除すべきものであるところ、原告貫次については後記のとおり収入があり、原告貫次およびその妻原告けい、訴外法弘およびその妻原告美枝子は家計を一にしてきたものである(弁論の全趣旨により明らかである。)から特段の事情の認められない本件においては、原告貫次はその所得から少くとも自己および原告けいの生活費相当分を家計に提供していたものと見るのを相当とすべく、次に肉鶏飼育および栗栽培に関して訴外法弘が上田謙太郎商店勤務のかたわら従事したことは明らかであるけれども、前示のように訴外法弘は上田謙太郎商店に勤務し、その勤務時間および通勤時間を合計すると一日当り一〇時間をこれにあてており、訴外法弘の肉鶏飼育および栗栽培への従事について、それぞれ分担した作業内容およびその所要時間、あるいは右作業に要する時間の季節的変動の有無など訴外法弘が寄与した割合を推認させる事実についての立証はないが、訴外法弘が勤務時間の前後および休日に原告貫次の営む右家業に従事したことを認めることができるので、年間五二週として、訴外法弘が休日に手伝つたものとして訴外法弘と原告貫次との労務提供の割合を算出し、これを考慮すると訴外法弘の寄与はその一割に当る年間一四〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。(結局肉鶏飼育および栗栽培による所得は右訴外法弘に帰属すべき分を除き、原告貫次に帰属したものと見るのが相当である。)総理府統計局編家計調査年報によれば、昭和四〇年全国勤労者世帯の世帯人員数別一世帯当り年平均一か月間の収入と支出の表のうち支出につき、訴外法弘の年令、職業、家庭内における地位、家族構成を考慮し、内閣統計調査局消費単位を用いると、訴外法弘のそれは一に、原告美枝子のそれは〇、九となるので、訴外法弘の生活費としては全支出額の一・九分の一すなわち〇・五二六倍に当ると見ることができるのでこれを算出し、これと実収入との比率を求めると三八パーセントになる。そうすると訴外法弘の一か年当り逸失利益は実収入一、一一〇、九一〇円から生活費四二二、一四五円を控除した六八八、七六五円となる。成立の真正につき争いのない甲第一号証の二、証人上田誠の証言および原告貫次本人尋問の結果によれば訴外法弘は昭和一七年五月二二日生れの健康な成人男子であり、本件事故がなければ満六〇才に達する昭和七八年五月まで上田謙太郎商店に自動車運転手などとして勤務し少くとも前記の収入を挙げることができたものと考えられる。この逸失利益をホフマン式計算によつて法定利率により中間利息を控除し一時払額に換算すると、一二、四一七、九五〇円となる。

七  (原告貫次の損害金)イ葬儀費用。原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし三、および原告貫次本人尋問の結果によれば、訴外法弘の葬儀費用として、原告貫次が少くとも金三〇〇、〇〇〇円の費用を支出したことを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。訴外法弘の年令、職業、社会的地位、家庭内における地位などその他諸般の事情を斟酌すると原告貫次の請求額は相当性の範囲内にあるものと考えられる。ロ自動車修理代。本件事故により訴外法弘運転の自動車が大破したことについては被告の明らかに争わないところであるから自白したものとみなされ、原告貫次本人尋問の結果によれば、右自動車は訴外法弘の所有と認められるので、その損害については訴外法弘に賠償請求権が生じたものと見るほかはなく、直ちに原告貫次自身の損害と見ることはできない。

八  (原告らの慰藉料)以上の各事情、特に訴外法弘の原告ら家庭内における地位および原告らとの親族関係の差異その他諸般の事情を総合すれば、原告らの精神的苦痛を癒すには、慰藉料として原告貫次および同けいにつき各一、〇〇〇、〇〇〇円、同美枝子につき金一、五〇〇、〇〇〇円とすることが相当である。

九  (弁護士費用)以上の経緯、殊に事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情に照らし、原告貫次の負担する弁護士費用のうち被告に負担せしむべき相当性の範囲内の額は、金六〇〇、〇〇〇円とすることが相当である。(なお、原告貫次本人尋問の結果により成立の真正を認めうる甲第一六号証、および原告代理人らに対する本件訴訟の委任状によれば、原告ら三名が一通の委任状により昭和四七年六月四日付で原告訴訟代理人らに本件訴訟を委任し、また、同年六月一日付弁護士鈴木俊蔵法律事務所名義で原告貫次宛本件訴訟の弁護料として金六〇〇、〇〇〇円受領した旨の領収書を作成していることが認められるのであるが、先に認定したところの原告らの身分関係および同一世帯を構成していたことを考慮し、右の相当額を判断したものである。)

一〇  (権利の承継)原告らと訴外法弘との身分関係については前記認定のとおりであるところ、前顕甲第一号証の二によれば原告美枝子と訴外法弘との間に昭和四七年三月一日長女が生れたが同月二日死亡し、外に両者間に子供はない。そうすると原告らのみが訴外法弘の相続人であり、その相続分は原告貫次、同けいが各四分の一、原告美枝子が二分の一の割合で訴外法弘の権利を相続により承継したことになる。なお、訴外法弘について生じた財産上の損害額のうち金二、〇〇〇、〇〇〇円については、同人の死亡を原因として早川町農業協同組合から賠償責任共済契約に基づく共済金によつて填補されたことは原告らの自陳するところである。そこで、これを控除した額について右相続分により計算すると原告貫次および同けいについては各二、六〇四、四八七円(円以下切捨)同美枝子については五、二〇八、九七五円となる。

一一  そうすると、原告貫次については金四、五〇四、四八七円、同けいについては金三、六〇四、四八七円、同美枝子については金六、七〇八、九七五円およびこれらに対する訴状送達の翌日である昭和四七年六月一八日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条仮執行および同免脱の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 齊藤清六)

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